2020.3.24
活動報告
(一社)中部圏イノベーション推進機構〔会長:豊田鐵郎 中経連会長〕は、1月9日(木)、ナゴヤ イノベーターズ ガレージプログラムである「アカデミックナイト」および「フューチャーコンパス」の合同企画として、2014年にノーベル物理学賞を受賞された、名古屋大学 未来材料・システム研究所 未来エレクトロニクス集積研究センター長・教授 天野浩氏による特別講演会を開催し、約120名が参加した。天野教授から「ゼロエミッション社会の構築に向けて」と題して講演が行われた。講演要旨は以下の通り。
<講演要旨>
1. 21世紀のものづくりを主導する体制づくり
1989年の世界時価総額ランキングでは、日本企業は7社がトップ10に入っていた。しかし、2018年のランキングでは、日本企業はトップ10に1社も入っていない。かつてアメリカが月着陸を行ったときは、「宇宙開発やミサイル防衛でソビエト連邦に負けてはならない」という危機感から、莫大な投資、綿密な議論、数々の飛行訓練、詳細な飛行計画の積み重ねを経て成功させた。その当時のアメリカの危機感に相当する明確なモチベーションが現在の日本にあるだろうか。
名古屋大学では、未来材料・未来デバイスによる省エネルギーエレクトロニクスに特化した研究・教育を推進するために、「未来エレクトロニクス集積研究センター(CIRFE)」を立ち上げた。ここでは、異なる専門性を持つ研究者が集結し、結晶をつくる基礎研究を行う人から、車を走らせる人や飛行機を飛ばす人まで一気通貫でつながっている。そして、CIRFEでは目標となる未来を定め、システム、モジュール、デバイス、結晶など、各分野の専門家が集まり目標の実現に向けてチームで取り組んでいる。従来、別々に行っていた研究をチームで取り組むことで、21世紀のものづくりを主導できる体制を整えた。
2. 環境にやさしい新電力系統モデルの実現
LED照明の普及により、国内では年間1兆円の削減効果があると言われている。CIRFEでは、日本の温室効果ガス排出量を80%削減するための方法を本気で考えた。そのためには、発電システムを再生可能(太陽光)エネルギーに変え、あわせて蓄電システムを整える必要があり、約10.4兆円の投資が必要であると算出した。30年取り組んだ場合、年間約0.35兆円で温室効果ガス排出量が80%削減できる。実現には、可動式洋上太陽光発電、インテリジェントパワーコンディショナー、ワイヤレス電力伝送に最適エネルギーマネジメント(AI制御)を組み合わせた、再生可能エネルギー中心の新電力系統モデルが必要と考えており、その際キーとなるのが青色LEDに使われている窒化ガリウム(GaN)である。
3. 青色LEDからフライングカーへ
CIRFEでは、すべての電源でGaNのトランジスタを使用する「All GaN Vehicle」を東京モーターショーに出展した。また、垂直離着陸ができるフライングカーの開発や走行中給電の実現に向けた研究にも取り組んでいる。将来は、自動で空を飛ぶ車で移動し、宅配便の荷物が自動ドローンで届き、アシストロボットが高齢者を助ける。すべての機械はワイヤレス電力伝送システムを取り入れることにより、作業ロボットが24時間稼働し、災害時には無人給電ロボットや電力供給ヘリが駆けつける。これが実現すると、将来は都市そのものを輸出する時代がやってくる。そのような社会を実現するために、「時速60㎞で走行する車にワイヤレス電力伝送を行う実験ができる場所」「次世代インテリジェント電力網を試験する場所」「生活空間全体を実験できる場所」を我々は求めている。名古屋大学では、工学系のアントレプレナー育成プログラムも実施しており、この地域の皆さんの力が集結し、名古屋が世界のイノベーションハブになることを願っている。