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グローバルセミナー 国際情勢連続講演会「米中覇権争い、今後の世界経済と日本経済」(9/30)

中経連国際委員会は、9月30日(水)、三菱UFJモルガン・スタンレー証券(株)チーフエコノミストの李智雄氏を講師に迎え、会場(ナゴヤ イノベーターズ ガレージ)およびオンライン形式にて、標記の講演会を開催し、委員長の大島副会長をはじめ94名が参加した。講演要旨は以下の通り。

【はじめに】
足元の世界経済の情勢は、最悪期を過ぎ徐々に回復に向かっている。また、新型コロナウイルス(以下、コロナ)に対する観点が、「予測できない『不確実性』から、確率的事象である『リスク』」に変わったことにより、以前ほど経済活動の制限をする必要がなくなり、経済低迷は過ぎつつあると言える。コロナ後の世界では、後述の4つの事象において、次の8つのテーマが重要となってきた。

① 積極的・拡張的な財政政策
② ESGの重要性上昇/アピールのチャンス
③ 中国関連:医療関連機器の需要は今後増える
④ 中国関連:インフラ投資、新インフラ整備
⑤ 中国関連:無接触化、自動化、高付加価値化
⑥ 隔離経済によるイノベーション
⑦ 隔離経済、生産性向上、働き方改革
⑧ グローバルサプライチェーン再考

【1.  現代の技術革新は効率追求型である:許容される低金利と膨らむ債務】
米国の成長率は2000年代前半までは3~4%前後であった、今では2%前後が当たり前となり、議会予算局(CBO)の2028年までの見通しにおいても2%を超えることはない。1990年代後半に本格化したインターネット時代において、潜在成長率が下がっていることは注目すべき現象であり、もはやイノベーションといえども、「需要創造型」ではなく、「効率追求型」が主流を占めており、こうした変化による生産性の伸び率低下が成長率低迷の主要因と考えられる。この傾向は世界的にも同様であるが、特に中国では、全体としては比較的生産性の上がりにくい第3次産業の比率が高いことから構造的な低成長となっている。2005年の第11次五カ年計画で中国は、GDP成長率重視から社会保障の充実を目指す「量より質」への政策転換を行っており、近年では特に医療を重視している。日本経済において我々も、効率追求型の供給側に回り、新しい技術を使いこなし、新産業を創造し、さらに政府の政策を積極的に活用すべきである。

【2.  進む4つの覇権争い ― 対立構図ははじまったばかりである】
PPP(購買力平価)ベースでは、米国は2014年に既に中国に抜かれており、実勢ベースでもいずれ中国が上回ることは時間の問題である。経済規模は購買力であり、デファクトスタンダードを左右する経済覇権に結び付く。米中の考える新興技術は全て技術覇権争いの対象であり、長期にわたりブレーキがかかることはないであろう。世界貿易に占める両国の割合は拮抗しており、中国の購買力が上がってきていることから、人民元の国際化(基軸通貨覇権)は米国の脅威になっている。軍事覇権の面では、米国は世界の防衛費の39%(2019年)を占め、中国の14%を大きく上回っているが、米中2国が世界全体の半分以上を占め、他国がいずれも4%以下である現実から、今後両国の覇権争いが長期化していくことは明白である。
これら4つの覇権いずれにおいても米中の争いが深刻化・長期化する中、両国の断絶リスクは大きく、米国側は代替生産拠点を徐々にしか見いだせておらず、また需要者としての中国とも長らく付き合っていく必要があるだろう。一方でそのような中、日本企業としては生産の分散化、コア技術の国内回帰、現地市場での体制強化などの準備を整える必要があると考えられる。
米国大統領がバイデン氏に変わると、中国の不公正慣行や、安保・人権上の懸念に対するより厳しい姿勢により、中国にとってはより交渉が難しくなり、市場関係者にとっては不透明さが増していくと考えられる。
日中関係に関しては、「中国は日本の技術が、日本は中国の市場が欲しい」という、経済利害関係は依然継続しており、少なくとも北京冬季オリンピック開催と、中国のFCV(燃料電池自動車)元年となる2022年までは、日中の友好性は保たれると考える。しかし、中長期的には関係悪化に備え、現地化、部品化を徹底していくことが課題となる。

【3.  停滞するグローバリゼーション ― 進む非効率という負担】
 今の技術革新度合いは、「効率追求型」であるが故に成長率が低下しやすく、それを支えるために金融緩和が進み、金利が低くなる。その低金利を肯定することが低成長を許容することとなり、さらに金利が低くなるといった循環構造がつくられ、これまでのグローバリゼーションが終焉に向かっている。低成長の中で果実を奪い合う状況下、自国の利益を守るための保護主義に走り、世界貿易の停滞につながっている。実際、リーマンショック以降、世界の輸出額は拡大しておらず、また世界貿易に占める途上国の割合も横ばいで推移している。
アンチダンピング訴訟件数では、中国の割合が高い。1990年代に増加傾向にあった件数が、2000年代にはグローバリゼーションが進む中、減少に転じている。しかし、再度2010年代以降増加に転じていることから、保護主義が台頭してきたことがわかる。直近では減少しているが、これはWTOが機能不全に陥っているからである。グローバリゼーションの停滞は「比較優位」の強みが発揮されないため、結果として世界全体においては非効率を意味するものである。従って、輸入代替型の商売の模索や、後述するブロック内における再編・効率化などを考えていかねばならない。

【4.  ブロック経済化 ―継続する「南北問題」がさらなる対立構図へ】
「経済規模の拡大による低コスト」「選択の拡大」「投資・生産の分散」「労働移動の自由」といった経済のグローバル化の利点を、その裏返しである「構造的失業」「過度な競争」「国内生産回帰の困難化」「国際的な格差」などの弊害が上回り、アンチ・グローバリゼーションへと向かうことで、ブロック経済化が進行することが考えられる。経済のグローバル化で最も恩恵を受けた中国製造業がこの流れで弱体化するという見方は誤りで、高度経済成長期後の日本のように、効率化・自動化などにより生産性を上げ「筋肉質化」し、競争力を増していくと見るべきであろう。
「南北問題」は未だ解決しておらず、多くの経済格差が存在するが、中国は途上国に対して、貧困脱却のための支援として中国ビジネスモデルを適用し、結果としてブロック経済化が進行し、さらなる対立構図が生じている。ESG強化など、途上国とともにサスティナブルな成長を模索し、初期から刷り込んでそれを継続する戦略が必要であろう。

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